どんなに歪でも日は登り一日は過ぎていく

 

緋牡丹(ひぼたん)  という植物を買った。

 

 

 

 

 

私は植物が好きで時々ホームセンターや農協の直売所なので買ってくる。妻は特に興味がなく、花や観葉植物よりも食べられる野菜などを育ててほしいそうだが家を綺麗に飾るのは悪い気はしないようで黙認してくれている。

 

 

 

先日家族で静岡の公園で行われた催事に出かけた。キッチンカーや雑貨を扱う店が並ぶ。バスケットコートではダンスバトルが行われていた。会場奥にはDJブースが設置されている。

 

その日出演するDJの一人がどうしても見たくて昼食後二時間車を走らせて来た。午前中小学校の奉仕作業で汗だくになりながらドブさらいをしてたから出かけるのはおっくうだったがそれを差し置いても見たかったので妻と息子も道連れにしてわざわざ来た。

 

クレープやビールで妻子の機嫌をとる。妻は喜んでくれたが息子は若干つまらなそうだった。人生いつもお前の思い通りにはならないんだよ、ともっともらしい講釈を垂れてその日は父のわがままに付き合ってもらうことにした。

 

 

 

お目当てのDJの出演時間が近づき、DJブースのそばに行くとその傍にアガベやサボテンなどの植物を販売してるお店があった。

 

店員さんの植物愛がとても深く販売するというより自慢のコレクションを披露してますといったスタンスで鉢一つ一つの良さを嬉しそうに伝えてくる。そういう話は聞いていて楽しい。

 

変わった植物が並ぶ中、一際鮮やかな小さな鉢がいくつかあった。

 

深い緑色の部分と色鮮やかな部分からなる植物はサボテンの一種のようで赤やピンクや黄色いものがあった。緋牡丹というそうで今まで見たことはあったが名前は知らなかった。

 

妻もどうやら気に入ったようで一つ選ぶことにした。赤と黄色のマーブル模様の個体が目についた。子株がいくつかついている。子株は黄色だったり赤だったりして店員さんもどっちの色になるかまだ分からないと言う。そんなミステリアスさも決め手となり買うことにした。

 

丁寧に梱包して袋に入れてもらったので手からぶらさげながら小一時間その日の目的であるDJの選曲を堪能してから帰宅。我が家に迎え入れた緋牡丹はキッチンの窓辺に置くことにした。

 

 

 

調べてみるとこの緋牡丹なかなか変わった植物で、本体は鮮やかな色の部分だけ。緑色の部分は接木された柱サボテンなのだ。緋牡丹は植物でありながら葉緑素がない。単体では生きていけないから接木して補う。

 

すごい進化のベクトルだと思う。進化とは基本的に必要に迫られて変化していくことだと私は考えるのだが、緋牡丹はどういう必要に迫られたのだろう?

 

元々単体で生きて生きていけないから生きながらえるために他の植物に寄生したのだろうか?もしそうならば合点がいく。自分に足りない部分を他者に寄り添い補って生きるというのはなんとも美談ではないか。

 

 

 

だが私の妄想は加速し、進化の理由が別にあるんじゃないかと考えた。その鮮やかな色を手に入れる為に生命維持に必要な部分まで捨てたとしたらなんというエゴイズムだろうか。

 

もしそうだとしたらその極彩色は緋牡丹が望んだ姿なのだろうか。まるで光と影のあるショービジネスに生きるアイドルのようだ。

 

魅せるだけでなく不完全とはいえ植物として生きるための営みがある。子株もできるし花も咲く。どんなにいびつでも日常がある。

 

 

 

某芸能事務所問題のニュースが連日報道されている。華やかな部分と暗い部分のゆがみをこの小さな鉢植えに重ねて見えた。